落とし込み板壁構法(板倉構法)

 「木の家」と聞くと、どんな家を思い浮かべますか?
古民家に代表される土壁の家を想像する方も多いと思いますが、筋違いのある在来工法の家や、丸太を積上げたログハウスやツーバイフォー工法の家も「木の家」には違いありません。現在日本には様々な木の家があり、それぞれに、地震に強い・高気密高断熱・コストが安い…など、利点があります。

 しかしその反面、シックハウスなどの室内環境汚染があったり、輸入木材の輸送に多くのエネルギーを使用していたり、機械生産に頼り職人の技術を発揮する場を奪っていたり…など、多くの問題点を抱えています。その中で、現代の日本の森林問題や職人の技術継承の問題、シックハウス等の現代社会が抱える問題を改善することを目的として、筑波大学教授・安藤邦廣氏によって「落とし込み板壁構法(板倉の家)」が提案されました。
 現代社会が抱える問題を改めて見つめ、今「板倉の家」を造る意味を再認識し、その仕組みと研究成果をご紹介致します。

『木箱の家』より
『集いの家』より
『青の家』より

●「現代社会の抱える問題」

 日本人の生活を支えてきてくれた森林は、古来より建築材料となるスギやヒノキなどの針葉樹だけでなく、薪や炭などの原料となる広葉樹も育ち、バランスのとれた姿で様々な恩恵を私達に与えてきてくれました。しかし現在の山の姿をよく見ると、スギやヒノキの針葉樹ばかりで埋め尽くされているのがわかります。
 これは、高度経済成長期に薪炭燃料から化石燃料へと移行したことで広葉樹の価値が下がったことに加え、スギやヒノキは第2次大戦中に軍事品と位置づけられて過剰に伐採され、さらには戦災で消失した家屋を建てるためにスギやヒノキは大量に必要となり、国ぐるみで植林が推し進められた結果です。それから50年以上経った今、その人工林は伐採時期を迎えています。

 しかし植林された苗木が生長する間に、コストが安い輸入木材が年々増え続け、今では日本の木材消費の80%を占め、人工林は伐採されずに放棄されてしまいました。そして日本の林業は衰退し、手入れのされぬ人工林は荒れ果て、バランスを失った森は国土保全の上からも危機的な状況に直面しています。

 また、現代の多くの木造住宅を見ると、構造の柱や梁は壁に覆われて見えなくなり、木と木は金物でつながれ、大工技術を発揮するのは和室一間程度になっています。このままでは大工の技術や文化がなくなることも、当然と言えるでしょう。
 このような森林保全や大工技術の問題という、日本の現代社会が抱える問題の中で提案された「板倉の家」とは、どんな構法なのでしょうか。


『原生林』

『戦後植林された杉林』

『伝統的な大工の技』

●「仕組みと特徴」

 板倉構法では、現代の人工林から最も多く生産される木材からとった4寸(12cm)角以上の柱や土台、梁で構造体を造り、柱と柱の間に杉の1寸(3cm)の厚板を落とし込んで壁を造ります。
 落とし込んだ厚板により、家の耐久性や耐震性、防火性の向上にも大きな役割を果たしています。柱に厚板を落とし込んだ板倉構造はとても粘り強く、地震時の力を柱と厚板がめり込む事で力を吸収し大きな耐力を発揮してくれます。

 また、厚板は防火性にも優れ、少しの工夫を加える事で隣家の火災からも守ってくれる構造となります。合せて、室内の空気環境を汚染することなく、また調湿性にも優れた仕上げ材料となり、住む人にとって心地よく、安全で快適な生活を送ることが出来る家造りだと感じています。

 板倉構法は、壁の落とし込み板をはじめ、床材や屋根材にも杉の厚板を用いることが多いため、通常の在来工法に比べて、2倍〜2.5倍程度の木材を使用し、構造と板材にほぼ同じ量の木材を使用します。
 木材を多く使用すると言うことは、大工の手間費もそれなりに掛かりますが、落とし込み板壁自体がそのまま仕上げ材となる為、下地や仕上げなどに掛かる外内装の工事費が抑えられ、また、設備や照明機器などを工夫することで、総工事費としては在来構法と同じ程度に押えられると考えています。

 板倉構法は、木材を豊富に使用する事から、現代の森林を守り育てていく事に繋がり、また、家の骨格を伝統的な木組みとする事で大工の手仕事・技術を必要とし、この構法を通じて大工技術の継承に寄与していくことが出来ると考えています。


『建前の様子』

『杉板を落している様子』

『落し板が入った壁』

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「NPO木の建築フォーラム」の研究報告

 今日の日本の森林資源としてもっとも豊富な杉の中小径木を活用した板倉の家は、森林保護、大工技術の伝承などの期待も大きく、また柱と柱の間に落とし込んだ厚板により、家の耐久性や耐震性、防火性の向上にも大きな役割を果たしています。柱に厚板を落とし込んだ板倉構造はとても粘り強く、地震時の力を柱と厚板がめり込む事で力を吸収し、大きな耐力を発揮してくれます。また、厚板は防火性にも優れ、少しの工夫を加える事で隣家の火災からも守ってくれる構造となります。

 しかしこれらの性能が有りながら、一般住宅をこの板倉構法で建てたくても、建築基準法の基準に合せる為には、筋違いや合板などを用いて施工せざるを得なかったり、実験結果などを元にして建築主事に説明したりと、一軒一軒試行錯誤しながら建築を行っていました。

 このような問題に対し、日本各地で板倉の家造りに取り組む建築士、工務店、製材所の関係者が集まって、板倉の家の取り組みの輪を広げるために、NPO木の建築フォラムに伝統木造研究会(委員長・安藤邦廣氏)を立ち上げ、そこを研究開発組織の母体として、全国中小建築工事業団体連合会及び全国建設労働組合総連合に呼びかけ、共同研究開発事業が行われました。研究開発された2つの大臣認定についてご紹介させていただきます。

●「壁倍率の大臣認定取得」

 柱に厚板を落とし込んだ構造は粘り強い造りですが、初期剛性が低い為に、そのままでは現行の構造基準を充たすのは困難でした。伝統的な板倉では厚板同士をダボで接合して剛性を高めていますが、これでは加工や施工手間がかかり、コストも上がってしまいます。これに対し、木摺板(キズリイタ)と呼ぶ板を縦に打ち付ける事で、落とし板の初期のズレを止める構法としました。

 2種類の壁の長さに対し、打ち付ける板の枚数を決め、最大2.2倍の壁倍率を取得する事に成功しました。通常の片筋違いで2.0倍の壁倍率なので、筋違いに対して1割増しの耐力壁になったことになります。
 また、筋違いの様に、初期の剛性だけに頼った仕様ではなく、初期剛性と木の持つ粘り強さを生かした耐力壁を併せ持つ事により、大地震にも耐えられる構造になりました。

 雑誌などで見かける板倉の家を見ると伝統的な構造で、施工が難しくコストがかかりそうだと考えている方も多いと思いますが、今回の認定仕様で設計すれば、建築業者であれば誰もが施工できる内容になっているのも大きな特徴であり板倉の家の普及の為の目的でもあります。新しい認定仕様での家造りは2005年から始まり、すでに大きな反響を呼び、各地で多くの施工が行なわれています。

●「防火構造の大臣認定取得」

 壁倍率の大臣認定を取得した板倉壁の仕様も元に、外壁の防火構造の開発が行われ、2007年5月に大臣認定を取得する事に成功しました。これにより準防火地域の2階建てや、法22条区域の2階・3階建てに対しても、外壁を板倉構法で施工する事が可能となりました。

 今回取得した認定仕様では防性能を確保するために、壁倍率を取得した仕様に対して、木摺り板を詰めて張る事と、柱側面に柱際板を設ける事の2つの改良を行なう事で、30分の防火性能を確保する事ができました。

 現建築基準法では、外壁に一定以上の防火性能を持たせる為に、外壁の室内側に、石膏ボード貼やグラスウールなどの断熱材の充填が決められていますが、今回の認定仕様を採用すれば、その様な仕様としなくても、場所を選ばず、杉の落とし込み板を室内に現した仕様とする事が出来ます。木自体は燃える材料ではありますが、木の使い方、特に木を厚く使うという事が大きな効果を顕し、火災に対しても十分な性能を発揮しています。

●「今後の実験と研究開発」

 木の建築フォラムでは、今回紹介させていただいた内容の他にも、実験や研究開発が行われています。
 板倉構法だけに使われる仕様でなく、木を生かした伝統的な構法に対して使える仕様も開発しています。すでに、柱と土台をつなぐ込み栓の耐力を実験により確認し、金物に頼った仕様ではなく、伝統的な仕口を生かした仕様が可能になりました。
 また、現在では、厚板を使って床剛性を高める実験も始まっています。これらの成果を広く知って頂き、実際の建築現場で使用して頂く為に、各地で講習会を開き、設計者や施工者の方々に認定の内容や施工の注意点などを伝えています。

特定非営利法人「木の建築フォラム」は、木材資源の循環を大切にして住環境に関わる技術開発や生産の復興、文化継承を共に考え実践する、開かれたネットワークです。

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